大学を卒業し、僕が手に入れたのは、埼玉にある某メーカーへの切符だった。
配属されたのは、ずっと希望していたソフトウェア・ハードウェアの設計開発部門。
社内でも期待の部署であり、新人である僕に向けられる視線には、確かな「期待」がこもっていた。自分でもそれを実感していたし、胸は高鳴っていた。
――だが、その華やかな舞台の裏で、僕は最初から小さな違和感と、底知れない恐怖を抱えていた。・・・
僕が配属された設計開発部門は、言わば「ロケット鉛筆」のような組織だったのだ。
新しい若手が一本押し込まれると、押し出されるように年長者が去っていく。
「いつか、僕もここから押し出される日が来るんじゃないか……?」
一度芽生えた不安は、じわじわと僕の心を蝕んでいった。
一方で、プライベートの僕はどこか満たされていた。
通い始めた英会話教室。新しい言語をマスターしていく感覚は純粋に楽しく、夢中になった。
持ち前の行動力で教室の仲間にどんどん声をかけ、飲み会やイベントを企画した。
あの頃の僕は、自分でも驚くほど充実していた。
男友達からも、女性からも、ありがたいことにモテにモテていた。……これは本当に、マジの話だ。
「設計開発のポジションを守り抜くこと」
「英会話教室で作った大切な人脈を広げること」
僕はこの二つの両立に、全力を注いだ。
けれど、自分でも気づかないうちに、心と体は限界まで張りつめていたのだと思う。
「明日も仕事だ。そろそろ寝よう」
深夜12時。いつものように布団に入った。
しかし、いつもと違っていたのは、そこからだった。
AM 1:00。……眠れない。
AM 2:00。……目が冴えていく。
AM 3:00。時計の針が進む音だけが部屋に響く。僕は焦り始めた。
AM 4:00。
AM 5:00。
暗闇の中で、冷や汗が吹き出す。
「今寝たら、絶対に寝坊する」
そう思った瞬間、今度は「寝ちゃダメだ、起きなきゃダメだ」という真反対の恐怖が押し寄せてきた。
結局、一睡もできないまま朝を迎えた。
重い体を引きずり、会社へ向かう。
出勤した僕を待っていたのは、容赦のない猛烈な睡魔だった。
「仕事中に寝るなんてあり得ない」
頭では痛いほどわかっている。けれど、意識が一瞬ふっと途切れる。
気がつくと、上司から業務指示を受けているまさにその最中、僕は深い眠りの底へと落ちていた。
自分の体が、自分の意思でコントロールできない。
底なしのパニックが僕を襲った。
見かねたベテランの先輩から「一度、病院に行ってみたらどうだ」と助言を受け、僕は心療内科の扉を叩くことになる。
――そう。ここから、僕の本当の「黒歴史」が始まるのだ。
(続く)